時論 日中国交正常化50周年へ 局面打開の知恵と行動を
2022年3月
東海日中関係学会会長 名古屋外国語大学名誉教授
名古屋外国語大学名誉教授 日中関係学会副会長 川村 範行
困難に直面したときに歴史の知恵から学ぶことがある。2012年の尖閣国有化問題と翌2013年の安倍首相の靖国参拝で日中両国が国交回復以来最悪の対立状態になったことは記憶に新しい。その当時、福田康夫元首相は「中国との関係を正常化しなければならない」と考え、局面打開に向けて動いたと証言している。(2022年1月10日のBS番組「報道1930」で)。
2014年5月頃から福田元首相は安倍首相に非公式に接触して日中関係を重要視していることを確認し、「靖国参拝をしない」との感触を得たと言う。福田元首相は「自分が習近平主席に会って話をしなければならない」と考えて、両国の外交関係者に打診し、同年7月に極秘訪中。習近平国家主席と会談し、安倍首相の靖国不参拝の方向と、尖閣問題で「双方に意見の違いはあるが衝突事故は止めよう」などを伝えた。さらに、同年10月にも福田元首相は訪中して習近平主席と会談し、尖閣問題での「4つの共通認識」へとつなげて、翌11月の安倍晋三首相と習近平国家主席の初首脳会談を可能にした。
その後、毎年のように日中首脳会談を積み重ねて、日中関係が徐々に改善の軌道に乗ったのは、福田元首相の局面打開の働きによるところが大きい。
福田康夫元首相は前述のBS番組「報道1930」で、「トップが全権を握っている中国を相手には、トップに会って話し合うしかない」「早く首脳同士が会って、何を考えているか、相手に何も望むか、お互いが満足できるような世界をつくっていくことや、気候変動、国際社会の在り方などを話し合ったらいい」と、早期の日中首脳会談を提唱。「首脳同士の対話を引き留めるようなことを国民がしてはいけない」と日本国内の雰囲気にも釘を刺した。全く同感である。私たちは福田元首相の知恵や提言に耳を傾ける必要がある。
日中関係はいま、台湾、人権、領土などの問題に直面し、かつてないほど難しい転換点に立っている。中国は50年前の発展途上国から今やアメリカと肩を並べる世界第2位の大国になり、日本と中国の力関係の逆転に加え、米中対立の影響や習指導部の強国志向など、日中関係の土台(状況)が大きく変化している。
日中関係の改善に向けて先ず二点を指摘したい。
(1)日本と中国の交流を築いた人たちの人文交流の歴史を両国民が知り、共有することでお互いを理解する基礎と世論ができていく。
(2)そのうえで、日本政府は米国の対中戦略に追従するのではなく、近年の日中関係の立て直しを図った福田康夫元首相の知恵や助言などから学び、活かしていく賢明さをもちたい。日中首脳(外相)会談の早期実現を図ることが何よりも求められる。
具体的に2点を提言する。
(1)2022年1月に正式発効の東アジアの地域的包括的経済連携(RCEP)を活用する。日中韓とASEANに豪州、ニュージーランドの15か国が署名し、GDP26兆㌦と世界経済規模の約3分の1、人口は22億人と世界人口の約3分の2を占める巨大経済圏が形成される。中国と韓国が初めて日本と経済連携協定を結んだことも画期的だ。RCEPを活かして日中間の経済貿易関係を発展させ、関係を構築していく。
(2)次に、2011年にソウルに設立された国際機関、日中韓三国協力事務所を基盤として、新たに“北東アジア非戦地帯”“北東アジア平和共存構想”を掲げて取り組む。東アジアや世界の平和・安定の在り方について日本と中国・韓国が認識や目標を共有することで、信頼関係を築いていくカギとなるよう提言したい。
(日中友好99人委員会会報2022年3月1日発行春季号「巻頭言」より)