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[2025.01.25] 時論「結成20周年 ジャーナリスト訪中団の成果と教訓」

2025/01/21

東海日中関係学会 2025年新春公開研究会

2025年1月25日

「結成20周年 ジャーナリスト訪中団の成果と教訓」

東海日中関係学会会長 川村範行・名古屋外国語大学名誉教授
元東京新聞・中日新聞論説委員/上海支局長

 
2004年に設立したジャーナリスト訪中団が20周年を迎え、昨年11月11日~15日、団長として北京の外交部(外務省)や中国社会科学院との定期交流を果たした。中日友好協会が受け入れ、コロナ禍で中断以来5年ぶりの再開となった。
訪中団メンバーは、朝日、読売、毎日、東京各紙、共同通信、時事通信、名古屋テレビ、毎日放送の論説・編集委員など9名(OB含む)。
 
1、2024年11月 ジャーナリスト訪中団の交流活動
(1)外交部アジア局の参事官クラス含む3名との昼食懇談はオフレコを条件に、日中外交の在り方やトランプ・アメリカへの対応などについて考えを述べ合った。
私個人の受け止め方としては、日中外交は首脳会談で再確認した「戦略的互恵関係の包括的推進」を基本にしている。2025年春以降に日本で開催予定の日中韓三カ国首脳会談に李強総理が訪日し、その後に同年中に石破首相訪中(在任なら)の可能性もあり得る。日中協調分野として、デジタル経済、グリーン環境、高齢社会ほかを見通す。トランプ2.0への対応は、相互尊重、平和共存、互利互恵の対米三原則が基本となる。
 
(2)政府系シンクタンク中国社会科学院日本研究所の楊伯江所長ほか研究者9名との座談交流会は「日米新政権下の米中戦略競争、日中戦略的互恵関係、東アジア和平の行方」をテーマに2時間余、事前の質問書を基に率直な意見交換を行った。中国側の主な見解は以下の通り。
∇米中関係について、トランプ政権の2大リスクとして、対中高関税、経済封鎖を挙げた。
対抗策として、米国主要産品、具体的に農産物、大豆、牛肉などへの関税を準備している。
米国の圧力下で中国産業の“革新”を進める考えを明示したのは、注目される。
楊所長は「米国は環太平洋地域の対話を通じて真の国際秩序を確立して欲しい」と要望。
∇日中関係について、「中国はCPTTPに加盟する意欲と能力がある。日本の理解と協力を」と発言。加盟申請以来、必要な法改正やサービス貿易・投資分野など市場入札の準備活動を進めていると明かした。但し、台湾の加盟には必ず「一つの中国」の原則に照らして処理すべきと指摘。中日経済貿易は「高度な相互補完関係を深化させていく」と見通しを述べた。
石破政権の政策や浮沈への関心は強く、「田中角栄の弟子、軍事オタク、反中ではない」との点を指摘し、協調の期待を示した。
 
(3)安徽省合肥でEV大手の蔚来汽車(NIO)やAI会社の科大訊飛(iFLYTEK)を視察。わずか3分間の電池交換ステーション等、EV技術の高さを知る。AIによる80余カ国語汎用の音声文字同時転換システム、翻訳高精度(中文98%、英文95%、他外語90%以上)を体験。5千元前後(約10万円)で商品販売。中国の科学技術の開発スピードに驚く。*注 中国EVメーカー約200社、NIOは開発や値引き競争等で計860億元(約1.8兆円)赤字、政府補助金による支援。
 
2、訪中団の経緯 本訪中団は、日本新聞協会と中華全国新聞工作者協会との間の日中記者交流計画とは別もの。きっかけは、2001年から小泉純一郎首相(当時)の度重なる靖国参拝などにより日中関係が悪化し、「政冷経熱」状態打破のため意見を聞きたいとの要請を04年に中国側から受けた。
明治の元老西園寺公望氏の孫で、国交回復前の北京に12年在住した西園寺公一氏の秘書として日中外交の黒衣に徹した南村志郎氏が仲介役。南村氏は1960年代から北京を拠点に60年間日中友好に取り組み、周総理側近、廖承志・中日友好協会初代会長と家族ぐるみ昵懇の間柄で、貴重な中国人脈を築いていた。(拙編著『日中外交の黒衣六十年 三木親書を託された日本人の回想録』)。私は東京本社論説室に在籍、他社の特派員経験者に参加を呼び掛けた。第1回は5社5名。以後ほぼ毎年、各社で10名前後人選。通算13回、延べ100名余が訪中した。
 
3、訪中団活動の成果
(1)活動は毎回、外交部や日本研究所と定期交流を重ね、日中外交や内外政策の考え方を“定点観測”した。例: 経済5カ年計画(第11次、12次、13次)のレクチャー、
戸籍制度の緩和政策=中小都市へ農民移住促進「都市戸籍許可」・・・等。
(2)中国側に意見や提言も行った。例:“覇権”傾向への懸念等。
(3)毎回の地方視察は中国各地の発展ぶりを知る好機となった。
例:最貧省の貴州省に世界最大の電波望遠鏡建設等。
(4)訪中成果を論説や論文に反映し、講演や研究会で発表もした。
 
4、中国社会科学院日本研究所の日本認識の変化(訪中団との定期交流より、時代背景) 2004年~「先進国日本との日中友好継続」“政冷経熱” GDPで日本が世界第2位維持 2008年~「日中友好に次ぐ枠組み“戦略的互恵関係”」 胡錦濤国賓来日、福田康夫首相と首脳会談 共同声明「戦略的互恵関係の包括的推進」 2010年~「日本と対等の自信(自豪)」 GDPで中国が独に続いて日本を抜く 2012年~「対立による日本パシング(無視)も」 領有権問題で国交正常化以降最悪の対立状態 2017年~「日本の比重低下、周辺国扱い」 第19回党大会で習3期目へ、中国・日本のGDP格差広がる 2024年~「新日中協調、(失われた30年の)日本に学ぶ」 経済減速対策・米中対立深刻化(トランプ2.0)
 
5、教訓と課題
中国ではここ数年、「国家安全」による規制が厳しくなり、日本のジャーナリストや研究者は訪中を躊躇う。加えてコロナ禍で日中間の往来が4年近く途絶え、中国報道は一面的、憶測的になりがちだ。だからこそ、対面交流により一次情報に触れると共に、変化の速い中国の現状を把握し、客観的且つ公平な中国報道や中国研究に資する必要がある。20年間に中国側と築いた信頼関係は大きい。恩人の南村さんは24年3月に94歳で逝去、訪中団の再開を霊前に報告した。今後も日中外交の“サブトラック”として微力を尽くしたい。
日中間の懸け橋・パイプ役の先細りを懸念。 現状として、福田康夫元首相は2012年9月の尖閣国有化問題後の日中対立緩和に尽力。2014年5月に安倍首相と非公式会談、靖国不参拝の意向を確認。同年7月に極秘訪中、習主席と会見し安倍氏の意向を伝達。日中外交関係者との水面下交渉を経て、10月に再度極秘訪中し、根回し。11月、北京のAPECで習・安倍初会談を実現。 *福田元首相は中国トップの信頼厚いが高齢。 ほか、国家安全保障局長・元外務次官の谷内正太郎氏(初代局長)、秋葉剛男(三代局長)が日中外交の実務レベルでパイプ役を務めた。
 
*ジャーナリスト訪中団ほか東海日中関係学会は、日中外交の“サブトラック”の役割を果たしてきた。 *日本の学会やジャーナリスト集団が、中国シンクタンク等との定期交流の枠組みを作るよう提言する。

 

中国外交部アジア局の参事官ほかとの会食懇談会=2024年11月12日、北京で
 

中国社会科学院日本研究所の楊伯江所長(前列中央右)ほかとの座談交流会=2024年11月12日、北京で
 

わずか3分で電池交換する、NIOのEV充電ステーション=2024年11月13日、安徽省合肥で
 

 

AIを利用して音声を同時翻訳し、80カ国語以上に対応可能、即時に文字転換できる最新翻訳システム。 販売されている商品(右下) =2024年11月13日、安徽省合肥で
 
*ジャーナリスト訪中団を仲介した南村志郎氏
下記写真は、『日中外交の黒衣六十年 三木親書を託された日本人の回想記』より

周総理と南村志郎氏 =1960年代、人民大会堂で
 

周総理の左:西園寺公一氏、〃 右:南村志郎氏=1973年4月、北京の人民大会堂で
 

廖承志氏(中央)、夫人(左端)と、南村志郎氏(右端)、恵津子夫人、長女、次女 =1960年代、北京市内の廖承志氏私邸で

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