時論 「21世紀版“ピンポン外交”~米中再接近を~ 」
2021年2月
時論 「21世紀版“ピンポン外交”~米中再接近を~ 」
名古屋外国語大学特任教授 日本日中関係学会副会長 川村 範行
(元東京新聞・中日新聞論説委員、上海支局長)
2020年1月に中国武漢で新型コロナウイルスが拡大してから1年以上が経過した。いまだに世界中が新型コロナとの闘いに明け暮れている。21世紀のパンデミックは世界の政治経済システムを大きく変えつつある。中でも世界に先駆けて新型コロナを封じ込めた中国と、感染者数世界一を続ける米国の対立は先鋭化し、新たな「米中新冷戦」の様相を呈している。このままだと世界を二分するデカップリング(切り離し)の懸念さえ出ている。
米中対立の狭間で、日本はどう対応するべきか。日中外交に精通する宮本雄二・元駐中国大使は著書『日中の失敗の本質』(中公新書ラクレ)で「中国には是正と改革を求め、米国には理と利を説いて修正を求め、米中の衝突を回避させるのが日本にとりベストの選択なのだ」と説く。
振り返れば、一九七一年春に名古屋の愛知県体育館で開催された第31回世界卓球選手権大会に中華人民共和国チームを招請し、米中両国チームの交流が生まれた。これを契機に水面下の外交が動き、ベトナム戦争で敵対していた米中の急接近、中国の国連加盟、続く日中国交正常化を促進した。小さなピンポン玉が外交を動かした―この歴史的な「ピンポン外交」から今年で五十周年を迎える。
習近平国家主席が2019年6月のG20大阪サミットの米中首脳会談の冒頭に名古屋のピンポン外交を取り上げたことは記憶に新しい。日本は東京五輪を機に習主席とバイデン大統領を愛知県体育館に案内し、半世紀前の歴史を想起して握手をさせる、21世紀版“ピンポン外交”とも言うべき、米中再接近を促すような舞台回しを用意できないだろうか。半世紀前にキッシンジャー大統領特別補佐官が極秘訪中し、周恩来総理、毛沢東主席と将来を話し合った「七月」にも符合する。敵対―関与―対立と推移した米中両国の最接近を―。ポスト・コロナに向けて、日本の大きな外交構想が望まれる。
(2021年2月 記 、日中友好99人委員会会報2021年春季号「巻頭言」より)