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時論 「中国共産党百周年 習近平総書記の演説を読み解く」

2021/07/01

                                     2021年7月

時論 「中国共産党百周年 習近平総書記の演説を読み解く」

 

名古屋外国語大学名誉教授 日本日中関係学会副会長 川村 範行

(元東京新聞・中日新聞論説委員、上海支局長)

 

 7月1日、北京の天安門広場で習近平総書記(国家主席)は中国共産党結党百周年の記念式典の演説を行った。「中華民族の偉大な復興」に向けて、共産党の力を強く訴えた内容だった。同時に、習氏自身の権威と権力の一層の強化を図る意図も垣間見えた。習氏の歴史的な演説の特徴を挙げてみる。

 

 1、毛沢東に似せた演出,

習氏は天安門の壇上でただ一人、中国伝統の礼服、中山服に身を包んでいた。スーツにネクタイ姿の周囲の幹部に囲まれて、ひときわ目立った服装だった。ちょうど72年前の1949年10月1日に同じ場所で中華人民共和国の建国を宣言した毛沢東主席がやはり中山服姿だった。

 さらに、結党記念式典はこれまで人民大会堂で行うのが通例だったが、初めて天安門を会場とし。新型コロナ対策の側面もあるが、やはり、毛沢東に倣って天安門広場を会場にしたと見ることができる。

 2、最優先は「中華民族の偉大な復興」

習氏の演説の中で、最も多く出てきた用語は「中華民族の偉大な復興」の13回である。「中華民族」だけで4回だ。具体的には貧困を脱却し、まずまずの暮らし「小康社会」を達成したことを誇っている。これは毛沢東も鄧小平も歴代の総書記だれも為し得なかったことである。この点を強調し、民族意識に訴えかけたと言える。2022年までの2期10年の任期を撤廃し、さらに三期目への意欲の表われとみていい。

 次に、注目したのは「マルクス主義」という言葉が10回、「社会主義」も10回出てきたことである。中国は改革開放路線に舵を切ってから、市場経済を取り入れて「中国特色社会主義」を標榜してきたにもかかわらず、「中国特色社会主義」は前述の2つのフレーズより少ない7回だった。習氏はマルクス主義を絶対的イディオロギーとして位置づけ、思想宣伝でもその徹底を指示しており、その考えが演説にも表れたと見ることができる。

 3、欧米の対中批判を意識

 習氏は演説で中国が「世界平和の建設者」「国際秩序の擁護者」と強調している点。続いて「平和、開発、公正、正義、民主、自由という全人類の価値観を守る」とも述べており、明らかに「自由、民主、平等」を掲げる欧米の価値観に対抗している。強気の演説だが、ますます欧米との溝を際立たせることになった。                                                   (2021年7月 記)

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