時論 「中国と国際社会の在り方、日本の対応」
2021年8月
時論 「中国と国際社会の在り方、日本の対応」
名古屋外国語大学名誉教授 日本日中関係学会副会長 川村 範行
(元東京新聞・中日新聞論説委員、上海支局長)
中国は国際社会と協調していくのか、或いは国際社会との対立も辞さないのか ― 見方が分かれる。最大の要因は米国と中国の対立の行方である。関係の良かった欧州諸国も最近は“戦狼外交”と呼ばれる中国の攻撃的な外交スタイルに対し、距離を置きつつある。中国はアジア、アフリカ、中南米などの国々の支持を背景に、欧米諸国を“少数派”と喧伝して対抗する。
上海の復旦大学文史研究員院長、葛兆光氏は自著『中国再考 その領域・民族・文化』(岩波現代文庫)で、2013年の時点で早くも次のように指摘した。「急速に膨張してきた中国が直面する重大な問題の一つは、中国とアジアと世界が文化、政治、経済の上でいかに共存するかと言うことである」と。
トランプ政権の誕生などを予言したフランスの人口学者、エマニュエル・トッド氏は「世界は中国に対して確固たる態度を取りつつも、理解を示す。拒否しつつも寛容である。そんな両面が必要になってくる」(『週刊東洋経済』2021年7月24日号)と、中国への対応を教示している。
日本外交に40年間携わってきた藪中三十二・元外務事務次官は近著『外交交渉四〇年 藪中三十二回顧録』(ミネルヴァ書房)で「(中国に対し)節度を以て相手にものを言うべき時には、タフに、はっきりとモノを言う。協力するのが良いときには協力する」と指摘。「香港や新疆ウイグルの問題ではモノを言う、南シナ海についてもモノを言う、そして東シナ海では日本の国益を守りつつ、平和攻勢をかけ、全体として中国に国際ルールを守るよう仕掛けていくのが日本の取るべき道である」と提言している。
日本は中国にどう対応すべきか-。古くから日本が抱える命題である。21世紀の今日、日本は日米同盟と日中関係の狭間で重要な岐路に直面している。与党自民党はじめ共産党を含む野党からも中国批判が出るのは、異例の状況である。日本は日米関係を基軸としつつ、長年にわたり日中両国の先人が築いてきた日中関係を維持するために、長期的かつ高度な対中戦略を求められている。
(2021年8月 記 、日中友好99人委員会会報2021年秋季号「巻頭言」より)